9月上旬、愛宕谷公園から、愛宕谷池、春日山神社、直江屋敷を経由して本丸に至り、春日山神社へ戻って車道を午前清水まで下るルートと、大手道から岩木三叉路、権現堂、南三の丸、柿崎屋敷を経由して本丸に至り、南三の丸に引き返して大手道を下るルートを歩きました。9月に入っても真夏日が続いています。
9月中旬、愛宕谷公園、滝寺のミズバショウ群生地、滝寺不動、滝寺毘沙門堂などを歩きました。
9月下旬、春日山の大手道、本丸、南三の丸、権現堂、岩木三叉路を経由して大手池まで歩きました。
以下の植物や動物を観察できました。
ツユクサ エノコログサ アキノエノコログサ キンエノコロ ミゾカクシ
イヌガラシ ゲンノショウコ ミズヒキ カタバミ コバギボウシ ツルマメ
ヒメジョオン ブタナ ヌスビトハギ ヤハズソウ ウリクサ コヨメナ
ヒルガオ クズ モリアザミ センニンソウ オトコエシ ヌマトラノオ
イボクサ ハキダメギク ガマ キンミズヒキ チヂミザサ ハナタデ
ヒメジソ ハシカグサ ニガナ キバナアキギリ アキノノゲシ セリ
ツリフネソウ ヒガンバナ ミゾソバ キミズゴケノハナ シロオニタケ
ツノマタタケ タマゴタケ
オオシオカラトンボ モンキアゲハ ミンミンゼミ ツクツクボウシ
ニイニイゼミ オスグロトモエ クサギカメムシ アブラゼミ ルリシジミ
ハラビロカマキリ シオカラトンボ オニヤンマ キアシマメヒラタアブ
ホシハラビロヘリカメムシ ジョロウグモ ダイミョウセセリ アカエゾゼミ
ヒメウラナミジャノメ キアゲハ ツマグロヒョウモン ウラギンシジミ
マユタテアカネ クルマバッタモドキ スズムシ コバネイナゴ アキアカネ
ベニシジミ ツヅレサセコオロギ カンタン
ニホンアカガエル ヤマアカガエル
ハイタカ サンショウクイ コゲラ ヤマガラ ヒヨドリ ハシブトガラス
ハシボソガラス アオサギ シジュウカラ ビンズイ カケス
ニホンリス







上旬、大手道ではブタナ、ツルマメ、モリアザミ、センニンソウ、オトコエシ、コヨメナなど、様々な花が咲いています。ツルマメは日本人が常日頃お世話になっているダイズの原種とされており、種子は食用になるようです。センニンソウは、公益社団法人日本薬学会のサイトで、「10月頃に根及び根茎を掘り出して乾燥したワイレイセン(和威霊仙)という生薬は利用例が分かっていないが、夏から秋にかけて採取した生の葉は扁桃炎、神経痛、リウマチの痛みの患部に数分貼り付けるなどといった使われ方がされた」と紹介されていますが、同時に、「茎や葉の切断面から出る汁や濡れた花粉に触れただけで炎症を起こす強力な毒草であるので、民間での飲用は絶対してはいけない」とも書かれています(2)。オトコエシは、一般社団法人和ハーブ協会のサイトで「全草、根茎を天日で乾燥したものをハイショウ(敗醤)と呼び、1日量5~10グラム、水0.6リットル、半量まで煎じて、3回に分けて服用して腫れ物の解毒に用いる」と紹介されています(3)。
クズは、根から葛粉が作られるし、「根を乾燥してカッコン(葛根)と呼ばれる生薬とし、風邪薬として知られる葛根湯などの漢方薬に配剤される」と日本薬学会のサイトでも紹介され(2)、なにかと役に立つ植物ではありますが、米国では園芸用、家畜飼料として、あるいは土壌流出防止のために持ち込まれた後、野生化し、除草が追いつかないほどの凄まじい繁殖力で繁殖地を広げ、今や、国際自然保護連合(IUCN) が作成した「世界で最悪の侵略的外来種 100 種」に加えられるほどの有害種扱いになっています(4)。実際、春日山でも柿崎屋敷と本丸の間の南東側の山の斜面がクズで覆い尽くされています。花は美しいのですが、あの、もっさりと山肌を覆っている様子は、どうも暑苦しくもあります。







中旬、愛宕谷公園では、イボクサ、ハキダメギク、ガマを観察しました。ガマは既にソーセージのような穂になっていましたが、一般社団法人和ハーブ協会のサイトで、花の季節に雄花から花粉を集めて乾燥させたものはホオウ(蒲黄)という生薬になり、利尿、通経薬として内服したり、止血薬としてそのまま傷口や火傷に外用したりできると紹介されています(3)。古事記でも、因幡の白兎が、ワニ(サメのこと)に皮を剥がされて泣いていたところ、オオアナムヂノカミ(若きオオクニヌシノカミ)から「今急やけき此の水門に往き、水を以て汝が身を洗いて、即ち其の水門の蒲黄を取り、敷き散して其の上に輾転ばば、汝が身、本の膚の如く必ず差えむ(急いで河口に行って真水で身体を洗い、すぐにガマの花を敷いた上に横たわって転がれば、きっと元の体のように治るだろう)」と助言され、傷ついた身体を癒しています。これは日本における薬草に関する最古の記述とも言われていますが、オオクニヌシは薬草にも詳しい尊い神様だったんですね。そういえば、オオクニヌシの「国造り」に協力したスクナビコナも医薬の神様として知られていますね。
滝寺のミズバショウ群生地には、キンミズヒキとチヂミザサが咲いていました。キンミズヒキは、一般社団法人和ハーブ協会のサイトで、花期に全草を干してリュウゲソウ(龍牙草)またはセンカクソウ(仙鶴草)と呼ばれる生薬とし、止血剤として用いることができ、また、抗菌、消炎、鎮痛作用もあって、健胃、下痢止めにも応用されると紹介されています(3)。滝寺の毘沙門堂ではハナタデ、不動尊ではキミズゴケノハナ(推定)が見られました。















下旬、春日山の大手道ではハシカグサ、ヒメジソ、キバナアキギリ、ツリフネソウが、景雄屋敷ではセリが、南三の丸ではヒガンバナとミゾソバが咲いていました。セリは秋の七草の一つとして知られていますが、一般社団法人和ハーブ協会のサイトでは、花期のセリの地上部を乾燥したものはスイキン(水芹)と呼ばれ、適量を煎じて、食欲増進、解熱、神経痛、リウマチ、黄疸などに用いられると紹介しています(3)。ツリフネソウとヒガンバナは毒草として知られていますが、ツリフネソウは一般社団法人和ハーブ協会のサイトで、夏から秋に掘り取った塊根を乾燥させたものをハオウシチ(覇王七)と呼んで、解毒や打撲傷の治療に用いる(3)とか、ヒガンバナは公益社団法人日本薬学会のサイトで、鱗茎を乾燥させたものはセキサン(石蒜)と呼ばれ、鎮咳去痰や鎮痛、降圧、催吐などの薬理作用があるなどと紹介されています(2)。毒も使い方次第で薬になるという例ですが、使い方を誤ればたちまち毒となりますから、おいそれと利用できるものではありませんね。
山の中では、いろいろなキノコが生えてきました。キノコ汁が美味しい季節ですね。とはいえ、ツノマタタケとかタマゴタケは食べられるようですが、シロオニタケは毒があるかどうかも分かっていませんし、他のキノコはそもそも同定困難で、食べてみたいという気にもなりません。キノコの同定は簡単ではなく、キノコをよく知っていると豪語している人に限って、毒キノコで食中毒になったりします。道の駅とかで食用として売られている野生のキノコに、稀に毒キノコが混ざっていることすらあります。生半可な知識で野生のキノコを採って食べるのはとても危険なのです。








上旬、大手道で色々な昆虫を見つけることができました。キアシマメヒラタアブは、5mmほどしかない小さなハナアブで、ブタナの花で花粉を集めていました。ホシハラビロヘリカメムシはマメ科植物(特にクズ)の汁を好むカメムシです。春日山では餌に困りませんね。ツマグロヒョウモンはオスとメスで羽色が全く異なります。写真の個体はメスで、有毒のカバマダラに擬態して天敵の攻撃を免れているそうです。
ダイミョウセセリは権現堂と南三の丸の間で見つけました。茶色地の地味な羽色に白斑を散らしているのを大名の紋付に見立てて名付けられたのだとか。白斑の部分は、光が透けて輝いています。
オスグロトモエは愛宕谷公園で見つけました。巴形の翅の模様がちょっとおどろおどろしいですね。
春日山神社から上越市埋蔵文化財センターに降りて行く途中の車道で、なんかアブラゼミがすぐ近くで鳴いているなと思って、声のする場所を探すと、なんとそこにはアブラゼミをカマでがっちり捕らえたハラビロカマキリが! アブラゼミは喰われながら「ジジジ…」と鳴いていました。自然の掟とはいえ、ちょっと怖い。なお、ハラビロカマキリはレッドデータブックにいがたで準絶滅危惧種に指定されています(5)。
モンキアゲハは春日山の至る所でふわふわ飛んでいて、黒いアゲハチョウはどれもモンキアゲハばかりです。ジョロウグモも、山中どこにでもいますね。体も巣もでかいし、トラ柄なので、すごく目立ちます。ジョロウグモも含めてクモはやたらと山道に巣を張っているし、ちょうど頭の高さに張られたクモの巣が顔にまとわりつくので、すごく鬱陶しいのですが、日光で輝くクモの巣は、結構芸術的に美しいと思ったりもします。



中旬、愛宕谷公園でマユタテアカネ、ウラギンシジミ、クルマバッタモドキを見つけました。赤トンボは秋のイメージにぴったりですね。とはいえ、赤トンボにもいろいろ種類があって、マユタテアカネはそのうちの一つです。
ウラギンシジミは鮮やかなオレンジ色の斑紋が綺麗ですね。写真の個体はオスで、メスではオレンジの部分が白いということです。
クルマバッタモドキは、なんだか全身迷彩柄の特殊部隊みたいな模様で、なかなか個性的なバッタですね。


下旬、春日山の大手道で、アキアカネとコバネイナゴを見つけました。アキアカネは、赤トンボの仲間で最もポピュラーですね。アキアカネの生活史は独特で、夏の間は猛暑の低地を避けて涼しい高山帯で過ごし、秋に一斉に低地に降りてくるのだそうです。そういえば、夏に高山に登ると、頂上付近をやたらトンボが飛び回っていますが、あれはみんなアキアカネだったんですね。
コバネイナゴは稲の害虫としてよく知られていますが、これの佃煮は、ビジュアルはさておき、とても美味しいです。ビジュアルのインパクトも堪能したい人には、日本のどこかで売られているというイナゴソフトがオススメかもしれません。私はまだ試したことはありません。
秋は鳴く虫が一気に増えます。春日山の大手道でスズムシとカンタン、南三の丸でツヅレサセコオロギの声を聞きました。虫の声を聞き分けるのは、鳥の声を聞き分けるのとはまた違った難しさがありますね。

上旬、長らく雨が降らなかった上越に、ようやくまとまった雨が降りました。野生の生き物たちにとっても恵みの雨であったでしょう。春日山神社のすぐ下にある御屋敷跡には、ニホンアカガエルがたくさん出てきていました。大手道ではヤマアカガエルも元気に活動していました。

上旬、大手道から岩木三叉路に向かう山道で、モグラ塚を見つけました。こんな土の盛り上がりが直線状に続いていました。新潟県には、日本最大種のエチゴモグラが生息していますが、分布は中越から下越にかけての新潟平野に限局し、分布はさらに縮小していることが報告されています(6)ので、今回見つけたモグラ塚の主は、おそらくアズマモグラでしょう。
参考文献
- 各種図鑑
- 公益社団法人 日本薬学会ホームページ(https://www.pharm.or.jp)
- 一般社団法人 和ハーブ協会ホームページ「イー薬草・ドット・コム」
(http://www.e-yakusou.com) - 伊藤 操子 (2010) 雑草紹介シリーズ クズ, 草と緑 2: 36-41.
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/iuws/2/0/2_36/_pdf) - 新潟県ホームページ「レッドデータブックにいがた」
(https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/kankyotaisaku/1214240790991.html) - 佐藤 雄大, 江藤 毅, 篠原 明男 (2021) 新潟県新潟市江南区および五泉市近郊におけるエチゴモグラMogera etigoとアズマモグラM. imaizumiiの分布,2019年の現状, 哺乳類科学61: 29-37.
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/61/1/61_29/_article/-char/ja/)