令和7年10月

 10月上旬、春日山の大手道から岩木三叉路、権現堂、南三の丸を経由して本丸に至り、直江屋敷、春日山神社を経由して愛宕谷池、愛宕谷公園に下る経路を歩きました。
 10月中旬、春日山の大手道から南三の丸、本丸を経由して、直江屋敷、春日山神社、御屋敷阯に下るルートと、愛宕谷公園から愛宕谷池、春日山神社、直江屋敷を経由して本丸に至り、南三の丸、権現堂、岩木三叉路を経由して大手池に至る経路を歩きました。
 10月下旬、春日山の大手道、柿崎屋敷、桑取道、城ヶ崎砦に至り、虎御前の墓所を経由して愛宕谷池に下る経路と、大手道から岩木三叉路、権現堂、南三の丸を経由して本丸に至り、直江屋敷、春日山神社を経由して愛宕谷池、愛宕谷公園に下る経路を歩きました。

 以下の植物や動物を観察できました。

ツユクサ  カタバミ  コバギボウシ  ニガナ  ヒメジソ  イヌガラシ  
ウリクサ  ハナタデ  イヌタデ  セイタカアワダチソウ  チカラシバ  
ミゾソバ  アキノノゲシ  キンエノコロ  アキノエノコログサ  エノコログサ  
モリアザミ  オオバコ  ホツツジ  クルマバハグマ  アキノキリンソウ  
ススキ  キバナアキギリ  ツルボ  ミズヒキ  ゲンノショウコ  ツリフネソウ  
イヌコウジュ  ヤノネグサ  シモツケ  オクトリカブト  ブタナ  ヤクシソウ
セイヨウタンポポ  ヒヨドリバナ  ツルタケ  ヒメジョオン  シロヨメナ  
オトコエシ  ガマズミ  リンドウ  キリ

ツクツクボウシ  キチョウ  ヤマトシジミ  オオハナアブ  アキアカネ  
キョウコシマハナアブ  キンケハラナガツチバチ  チャバネセセリ  
オオウラギンスジヒョウモン  キアゲハ  ミドリヒョウモン  ノシメトンボ  
アカタテハ  オオアオイトトンボ  モンシロチョウ

ヤマアカガエル

ヤマカガシ  ニホンカナヘビ

トビ  カケス  ヤマガラ  ハシブトガラス  アカゲラ  ヒヨドリ  ウグイス  
シジュウカラ  ハシボソガラス  ミサゴ  イカル  エナガ  マミチャジナイ  
アオゲラ


イヌタデ
ススキ
チカラシバ
クルマバハグマ
アキノキリンソウ
ツルボ
イヌコウジュ
ヤノネグサ

 10月上旬、イヌタデが至る所に生えていました。イヌタデはハナタデとそっくりですが、葉の形状や花の色と密度の違いで見分けられます。「蓼食う虫も好き好き」という言葉がありますが、この言葉の指すタデは、イヌタデと同属(イヌタデ属)のヤナギタデのことで、刺身のつまに使われることで知られています。一方で、葉に辛味のないイヌタデは、役に立たないという意味で名付けられたのだとか。
 ススキも開けた場所ならどこにでも生えていますね。秋のイメージにぴったりで、月見の際にも団子と共に、気分を盛り上げてくれる風流な植物です。
 チカラシバは、大手道で見かけました。エノコログサに似た外見ですが、穂先が垂れることはなく、全体に大柄で、佇まいはむしろススキに似ています。
 クルマバハグマとアキノキリンソウは、岩木三叉路を経由して権現堂に至る道に生えていました。クルマバハグマは、名の示す通り、葉が輪生していて、ボサボサ頭のようにくしゃくしゃした花も分かりやすい特徴です。因みに、「ハグマ」という名は、花の形を払子(仏教僧が持っている、埃や虫を払うための道具)に用いられる中国産のヤクの尾の白い毛(白熊)に見立てたものだそうです。アキノキリンソウは、花が全部咲くと総状になって、一株でも華やかな印象の植物です。一般社団法人和ハーブ協会のサイトによると、開花期のアキノキリンソウの全草を採取して乾燥させたものはイッシコウカ(一枝黄花)と呼ばれ、腎臓や膀胱の炎症、風邪の頭痛、喉の腫れや痛み、腫れ物などの治療、健胃、利尿、解毒などに用いられるとのことです(2)
 ツルボは、南三の丸の近くで群生していました。赤紫色の花が草原の中で目立ちます。一般社団法人和ハーブ協会のサイトでは、ツルボは必要な時に球根を掘り起こして、皮つきのまま、瀬戸物かプラスチックのおろし器ですりおろし、腰痛、ひざの痛み、打撲傷に擦り込んで使うと紹介されています(2)。また、ツルボの球根は、ヒガンバナの球根と同じように、穀物が不作になった時の代用食材にされた歴史があるそうですが、やはりヒガンバナと同じように有毒であるため、きちんと毒抜きできないと酷い目に遭います。
 イヌコウジュとヤノネグサは愛宕谷公園で見つけました。イヌコウジュは、同じイヌコウジュ属に属するヒメジソとそっくりでよく間違われるそうです。実際、愛宕谷公園で見つけたイヌコウジュは一株だけで、周囲に生えているのはヒメジソばかりでしたので、紛れて間違われやすいということもあるかもしれません。「コウジュ」というのは本来、ナギナタコウジュという別属のシソ科植物のことで、全草がコウジュ(香需)という生薬として利用されるそうですが、イヌコウジュにはそういう用途がなく、役に立たないという意味でそんな名をつけられたのだそうです。イヌタデもそうですが、どうして「イヌ」が役に立たないという意味になるのか、不思議でなりませんし、そんな意味で使われる犬たちがなんだか気の毒です。そのイヌタデと同じイヌタデ属に属するヤノネグサにも、ウナギツカミというそっくりな植物があって、鑑別に苦労しましたが、葉の形状で見分けることができました。

オクトリカブト
ヤクシソウ
ツルタケ

 10月中旬、本丸周辺では、オクトリカブト、ヤクシソウ、ツルタケなどが生えていました。オクトリカブトは、ヤマトリカブトの亜種のうち、新潟と群馬から北の日本海側に分布する亜種です。トリカブトと言えば、強力な毒草としてよく知られています。しかし、「毒をもって毒を制す」の言葉のとおり、強力な毒は、使い方次第で、時に薬ともなりえます。公益社団法人日本薬学会のサイトでは、トリカブトの塊根はブシ(附子)という生薬として、鎮痛薬や新陳代謝亢進に用いることができると紹介されています。とはいえ、やはり毒は毒。用量を誤れば、たちまち死に繋がりますので、素人療法での使用は危険とも書かれています(3)
 ヤクシソウは日当たりの良いところに咲いてとても目立ちます。和名の由来は、葉の形が薬師如来の光背に似ているからとか。なんともありがたいお名前をいただいた花ですが、一般社団法人和ハーブ協会のサイトによれば、ヤクシソウは食べられるけれども苦味があり、そこから薬、さらに薬師如来を連想して名づけられたとの説もあるそうです(2)
 ツルタケは見てのとおりのキノコです。生食すれば毒、加熱すれば可食だそうですが、あまり扱いの分からないものを食べるのはよした方が良いでしょう。ちなみに、同じテングタケ属のドクツルタケは、名前のとおりのかなり危ないキノコで、他の食用キノコと間違えて食べた人が死ぬこともあります。くわばらくわばら。

リンドウ
シロヨメナ
ガマズミの実
クサギの実
キリの実

 10月下旬、大手道ではリンドウ、桑取道ではシロヨメナが咲いていました。リンドウは、公益社団法人日本薬学会のサイトで、根や根茎を乾燥させたものをリュウタン(龍胆)と呼び,尿路疾患の治療薬や苦味健胃薬として用いられると紹介されています(3)。ひどく苦いことで知られる熊の胆より、更に苦いということで、「龍の胆」と名付けられたとか。
 山の中はすっかり秋の様相で、様々な植物が実をつけています。ガマズミやクサギ、キリの実などがよく目立ちます。ですが、いわゆるドングリのような堅果類がほとんど落ちておりません。全国で報告されているドングリの大凶作は、春日山でも同様のようです。その影響と思われるクマの出没と人身被害が一部地域で相次いでいて、過去に被害件数が多かった令和5年の件数を既に超えています。凶作の年は山のどんぐりが一斉に少なくなりますから、単純に山中にドングリのなる木を植えて殖やせば問題解決というわけにはいきません。本質的に、クマの習性が変化していると言うべきなのでしょう。もっとも、人間の活動がその変化と関連していることに、どうやら疑いの余地はないようですので、自然からのしっぺ返しを食らっているということなのでしょうが、だからと言って、座して今の状況を受け入れるわけにもいきません。今後、クマとの適正な共生のあり方について官民で考えていかないといけませんね。


オオハナアブ
キョウコシマハナアブ
キンケハラナガツチバチ
チャバネセセリ
オオウラギンスジヒョウモン

 10月上旬、猛暑が去って、爽やかな陽気の中、ハナアブやハチやチョウが花に集まっていました。ハナアブは体に凶悪な針を仕込んでいませんが、遠目に見るとシルエットや配色がハナバチによく似ています。オオハナアブなんて、初めはマルハナバチだと思ったくらいです。これは果たして収斂進化によるものか、とも思ったりもしますが、一般的に言われる擬態と考える方が正しいのでしょうね。写真のオオウラギンスジヒョウモンは、鳥のような天敵に襲われたのか、右後翅の一部が大きく欠損していました。それでも普通に飛んでいたので、チョウの飛行能力は大したものだな、と感心します。

アカタテハ
アカタテハ(羽をたたんでいる)

 10月中旬、本丸近くでアカタテハを見つけました。羽を広げていると綺麗なオレンジ色がとても目立つのですが、羽をたたむと、途端に地面に溶け込んでしまいます。幼虫はカラムシ(苧麻(ちょま)とも呼ばれる)を食草としていますが、成長したカラムシの茎の皮から作られた繊維は「青苧(あおそ)」と呼ばれ、越後上布の原料となっています。この青苧が、上杉謙信の重要な財源であったというような話もあるようですが、歴史学者の見解としては、確証はないようです(4)。とはいえ、青苧は越後の特産には違いなく、アカタテハはそうした越後の地域産業と共に生きてきたのでしょう。

モンシロチョウ
オオアオイトトンボ

 10月下旬、大手道でモンシロチョウ、桑取道でオオアオイトトンボを見つけました。モンシロチョウは、全国に分布するありふれた蝶ですが、春日山では、同じシロチョウ科のキチョウはたくさん見られますが、モンシロチョウはほとんど見かけませんね。食草の違いと、モンシロチョウは農業害虫として防除の対象になっているせいかもしれません。この時期、トンボといえば赤トンボばかりなので、たまにイトトンボのようなタイプの違うトンボを見つけると、かなり新鮮な気分になります。


アカゲラ

 10月中旬、春日山のあちこちでアカゲラがキョッ、キョッ、キョッと鳴いています。木々の間を飛び回り、時々木の幹をコンコンつついています。べつに珍しいわけでもありませんが、姿を見ると、ちょっと特別感のある鳥です。


参考文献

  1. 各種図鑑
  2. 一般社団法人 和ハーブ協会ホームページ「イー薬草・ドット・コム」
    http://www.e-yakusou.com
  3. 公益社団法人 日本薬学会ホームページ(https://www.pharm.or.jp)
  4. にいがた経済新聞「【特集】越後の青苧(あおそ)は上杉謙信の財源だったのか?歴史上の謎を探る」(https://www.niikei.jp/486149/

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